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福島地方裁判所会津若松支部 平成2年(ワ)127号 判決 1992年1月21日

主文

一  被告株式会社星建設工業所は、原告に対し、別紙物件目録一記載の土地建物を明け渡せ。

二  被告有限会社キョウエイ製作所は、原告に対し、別紙物件目録一3記載の建物を明け渡せ。

三  被告星貴司、被告森祥子は、原告に対し、別紙物件目録二記載の土地建物を明け渡せ。

四  被告株式会社星建設工業所は、原告に対し、平成三年三月五日から別紙物件目録一記載の土地建物明渡ずみまで一か月金三一万三四五八円の割合による金員を支払え。

五  被告星貴司、被告森祥子は、原告に対し、各自平成二年八月一日から別紙物件目録二記載の土地建物明渡ずみまで一か月金一三万四一八二円の割合による金員を支払え。

六  原告の被告株式会社星建設工業所及び被告有限会社キョウエイ製作所に対するその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用は被告らの負担とする。

八  この判決は、第四、五項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

1  主文一ないし三項、五項及び七項同旨

2  被告有限会社キョウエイ製作所(以下「被告キョウエイ」という。)は原告に対し、別紙物件目録一1、2記載の土地を明け渡せ。

3  被告株式会社星建設工業所(以下「被告星建設」という。)及び被告キョウエイは原告に対し、各自平成二年八月一日から別紙物件目録一記載の土地建物明渡ずみまで一か月金三一万三四五八円の割合による金員を支払え。

4  仮執行宣言

第二  事案の概要

一  本件は、別紙物件目録一、二記載の土地建物(以下「本件土地建物」又は「本件一、二の土地建物」という。)の所有権を競売により取得した原告が、被告らに対しその明渡及び賃料相当損害金の支払を請求した事案である。

二  基本的事実

1  原告は、平成二年七月二三日、競売により本件土地建物の所有権を取得し同月二五日所有権移転登記を得た(当事者間に争いのない事実、甲一、二、原告、弁論の全趣旨)。

2  原告は被告らに対し、平成二年七月下旬ころ、本件土地建物の明渡を求めた(当事者間に争いのない事実)。

三  争点

1  本件土地建物の占有者はどの被告か。

2  被告星建設は本件土地建物につき留置権を有するか。

3  被告星建設は留置権を消滅させ又は放棄したといえるか。

4  原告の留置権消滅請求は認められるか。

5  原告の賃料相当損害金の請求は認められるか。

第三  争点に対する判断

一  本件土地建物の占有者について

1  被告星建設は本件一3の建物(以下「本件一の建物」という。)の注文主の合資会社山家屋商店(以下「山家屋」という。)に対する工事代金債権確保のため山家屋から昭和六〇年六月二二日右建物を賃借し、同年七月ころ引渡を受け、それ以来占有している。被告星建設は本件一の土地については自動車を駐車させるなどして占有している(甲八、乙五の二、原告、被告星貴司)。

被告キョウエイは、後記四のとおり本件一の建物(倉庫・事務所)のうち倉庫部分の約半分位にベニヤ板と木工機械を置いて右建物を使用している。

2  本件二4の建物(以下「本件二の建物」という。)については、被告星貴司(以下「被告星」という。)は山家屋に対する債権確保のため山家屋の代表社員小久保〓(以下「小久保」という。)から昭和六〇年六月二二日右建物を賃借して引渡を受け、昭和六二年一〇月ころから被告星の妹である被告森祥子(以下「被告森」という。)とその家族を入居させ、それ以来被告森が直接占有している。被告星と被告森は本件二の土地については自動車を駐車させるなどして占有している(甲七、乙五の一、原告、被告星)。

二  被告星建設の留置権について

1  本件二の建物については、小久保との間の昭和六〇年六月二二日付賃貸借契約では被告星が賃借人となっている。被告星は山家屋に対し貸金があり、かつ山家屋の他の債務につき被告星が保証していたので、被告星の右債権確保のため右建物については賃借人を被告星個人とした(甲七、被告星)。したがって、右建物については被告星建設ではなく被告星が占有していることが認められる。よって、被告星建設が本件二の建物につき留置権を主張することはできない。

2  本件一の建物についての留置権の主張につき判断する。

被告星建設は右建物等の競売における執行官の現況調査の際、山家屋に対し債権をもっており一か月一万円の賃料はこれに充当していると述べてはいる(甲五)が留置権の主張はしていない。

しかし、被告星建設は原告の本件競落前の昭和六〇年七月ころから本件一の建物を占有している(前記一1)。また被告星建設は山家屋に対し、本件一、二の建物の請負工事(代金合計四一二一万円)に関し二二六五万二八五九円の工事代金残債権を有している(乙一ないし四、被告星)。右残債権額は本件二の建物の工事代金も含んでおり、また被告星建設が本件一の建物の賃料を右債権に充当しているとすれば右債権額は減少しているはずであるので、債権額の点はさておき、被告星建設は本件一の建物に関して生じた右債権を有しているから右建物につき留置権を有していると認めざるをえない。

三  留置権の消滅・放棄について

原告は、被告星建設が本件一の建物工事完了後山家屋に引渡し保存登記をさせたことをもって、留置権の消滅・放棄を主張するが、右のとおり被告星建設は本件一の建物の占有を回復しその後も占有しているので、留置権が消滅したとはいえず、放棄したとは認められない。

四  留置権の消滅請求について

本件一の建物については、被告星建設は小久保から昭和六〇年七月ころ引渡を受けたが、空家のまま管理していて実際には昭和六三年ころから使用するようになった。そして被告星建設は、右建物の倉庫部分の約半分を、被告キョウエイに対し平成元年一二月ころから貸し、被告キョウエイは多量のベニヤ板などの原材料と古い木工機械を置いて使用していた。被告キョウエイの代表取締役中山輝昭は被告星建設に対し、同月から平成二年一二月ころまでフォークリフトの使用料も含め一か月六万円を使用料として支払っていたが、原告から本訴を提起されたため平成二年一二月ころベニヤ板を運び出し、その後は新たにベニヤ板を運び入れてはいない。しかし現在も、四トン車で一台半から二台位の量のベニヤ板と右木工機械を置いてある。また平成元年一二月以降も右建物のうち被告キョウエイの使用部分以外は被告星建設が使用してきた(被告星、被告キョウエイ代表者)。

そうすると、被告星建設は所有者である原告の承諾なしに(原告)、本件一の建物を保存に必要な使用の範囲を超えて、被告キョウエイに使用させ又は賃貸したと認められる。したがって、民法二九八条二、三項による原告の留置権消滅請求は理由がある。

五  賃料相当額の損害金について

1  平成二年八月一日現在、本件一の土地建物の賃料相当額は一か月三一万三四五八円であり、本件二の土地建物の賃料相当額は一か月一三万四一八二円である(甲九、原告)。

2  被告キョウエイに対する賃料相当損害金請求につき検討するに、建物の占有と土地所有者が土地を使用できないこととの間には特段の事情のない限り相当因果関係がなく、被告キョウエイの本件一の建物占有は建物の一部であって、右特段の事情は認められないから、被告キョウエイの本件一の建物占有と原告が土地を使用できないこととの間には相当因果関係がない。また、被告キョウエイの本件一の建物占有部分は特定されておらず、その面積も明らかではないので、建物占有部分についての損害金を認定することはできない。したがって被告キョウエイに対する損害金請求は理由がない。

3  被告星建設、被告星及び被告森に対する賃料相当損害金請求について検討するに、右被告らはそれぞれ本件建物のみならず自動車を駐車するなどして被告星建設は本件一の土地を、被告星及び被告森は本件二の土地を占有しているため原告は右各土地の使用を妨げられていること、右各土地は各建物の床面積に比べて相当広いこと(甲九、乙五の一、二、原告)などに照らすと、右被告らに対する土地建物の賃料相当損害金の請求は認められる。もっとも原告は、平成三年三月四日被告らに送達の準備書面をもって留置権消滅請求の意思表示をしたので、被告星建設に対する本件一の土地建物の損害金請求は平成三年三月五日から明渡ずみまでに限り理由がある。

六  結論

よって、原告の本訴請求のうち、被告星建設に対する本件一の土地建物明渡と平成三年三月五日から明渡ずみまでの損害金の支払、被告キョウエイに対する本件一の建物明渡及び被告星、被告森に対する本件二の土地建物明渡と平成二年八月一日から明渡ずみまでの損害金の支払を求める部分は理由があるが、被告星建設及び被告キョウエイに対するその余の請求は理由がない。

土地建物明渡についての仮執行宣言は相当でないので付さない。

訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条を適用して被告らの負担とする。

(別紙)

物件目録

一 1 所在    南会津郡田島町大字田島字鎌倉崎

地番    乙一七番一

地目    宅地

地積    一二五二・六一平方メートル

2 所在    同所

地番    乙一七番二

地目    宅地

地積    四七二・七二平方メートル

3 所在    南会津郡田島町大字田島字鎌倉崎乙一七番地一、乙一七番地二

家屋番号  乙一七番一

種類    倉庫事務所

構造    鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積   四一一・二二平方メートル

二 1 所在    南会津郡田島町大字田島字鎌倉崎

地番    乙一七番四

地目    宅地

地積    一二五・一八平方メートル

2 所在    同所

地番    乙一七番八

地目    宅地

地積    二三一・八四平方メートル

3 所在    同所

地番    乙一七番一〇

地目    宅地

地積    一七一・三四平方メートル

4 所在    南会津郡田島町大字田島字鎌倉崎乙一七番地八

家屋番号  乙一七番八

種類    居宅事務所

構造    木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積   一階  一四七・〇三平方メートル

二階   四四・一三平方メートル

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